



本作は、劇場という「見る」ための装置を、知覚の構造として再構成する試みである。舞台には、ある部屋の再現、そしてその前には、もう1枚スクリーンが揺れている。スクリーンには、光と映像によって“意識に現れる世界(Noema)”が映し出され、その背後には、“世界を知覚しようとする意識(Noesis)”を象徴する現実の舞台が潜む。観客が視点を移動するたび、反射と透過のあいだで「見る/見られる」の関係が反転し、劇場そのものが、意識と世界が互いを映し合いながら生成し続ける入れ子の空間として立ち上がる。
スクリーンに投影されるのは、作者自身のカメラロールに残る風景の断片である。しかしそれらは、撮影者の記録としてではなく、「誰の記憶とも知れない意識の残像」である。映像は時間や場所の秩序を失い、昼と夜、都市と自然、記憶と現在がゆるやかに交錯する。観客が視点を移動するたび、反射と透過のあいだで現実と映像の層は入れ替わり、世界を見ているのは誰なのか、世界は見る前からそこにあったのか──という問いが静かに立ち上がる。劇場という“現れる場”そのものが、意識と世界が互いを生み出し合う入れ子の空間として生成していく。
また、実験の一つとして作品のステートメントを3種類用意した。アート、文化人類学、脳神経科学それぞれ
のまなざしが、本作品をどう解釈したのかを提示し、作品が複数の解釈を許容するNoema Labの思想として表現した。
Noema Lab
アーティスト・武田萌花が主宰するクリエイティブユニット。現象学における「ノエマ(対象)」と「ノエシス(意識の働き)」をテーマに、脳神経科学・文化人類学など異分野の知見による共創・リサーチを実践し、知覚や認識の在り方を問う映像インスタレーションの制作に取り組んでいる。 単なる作品制作・発表に留まらず、展示空間を「実験と対話の場」と捉え、鑑賞者の反応を再び制作と思考へ還流させるプロセスを重視した活動を特色とする。2025年4月より始動。